1枚絵MV史の試論

hazuqu

1枚絵MVの定義

「1枚絵MV」で検索するとボカロオリジナル曲MVや「歌ってみた」MVを指す傾向にある。[1][2]
MV作家間でも同様のジャンルを「1枚絵MV」と呼称する。[3]
また技術的な側面では一枚絵MVの表現などまとめ|こいけ©がグラフィックデザイン・テキストモーション・コラージュ・カメラモーション・3DCGの5種に分けて表現を分類するなど、1枚絵に対して多岐なCG要素が付与されるとしている。
1. MVの作り方完全ガイド|初心者でもスマホ・無料で作れる方法から本家風MVのコツまで解説
2. 「オリジナル曲」や「歌ってみた」動画の一枚絵をイラストレーターに依頼する流れ
3. ボカロ・歌ってみた系MV(1枚絵)の制作フローをまとめてみた(ガチ初心者向け)

以上から、本ブログでは1枚または複数枚の差分を持つイラストと、CG技術をまぜたミュージックビデオを「1枚絵MV」とする。細かく言えば、カゲロウデイズ以降に見られるレイヤー構造やCG要素を伴う表現を対象とし、単一静止画を表示し続ける様式(カゲロウデイズ以前のリリックビデオ・オーディオビジュアルに値する様式)は含まないとする。

1枚絵MVの変遷

ボカロシーン

ボカロシーンにおいてはsupercell、ハチ、sasakure.UKらが作り上げた音楽×イラスト文化の歴史 ボカロ・ニコニコ動画視点で考えるMVの発展 - Real Sound|リアルサウンドリリックビデオに眠る記憶の連続性|ARTICLES|The Graphic Design Reviewを参照する。後者はMVのうちリリックビデオの軸から1枚絵MVに触れる記事であるが、前述の定義で「テキストモーション」をCG技術に含む。

Real Soundの記事によると、『supercell - メルト』(2007年)は「一枚絵が当初は無断転載だった(中略)当時初音ミクの二次創作イラストの正当な手配方法は、面識ある絵師からの提供あるいは自分自身で描くのみ」だった状況から、「2007年12月にコンテンツ投稿サイト「ピアプロ」が登場」したことにより「ボカロキャラの二次創作イラストを使った動画が爆発的に増加した」としている。
同時期『supercell - ブラック★ロックシューター』(2008年)を筆頭に「手描きPV」が流行し、ハチやwowakaの「楽曲映像の作風・絵柄をある程度固定する」戦略の確立などの追従もあってボカロとイラストレーターのタッグの文化が成立していた。
この頃の歌詞表示についてThe Graphic Design Reviewでは「テレビの歌番組やOPと同じフォーマット」と形容し、その後の『DECO*27 - モザイクロール』(2010年)では「歌詞の進行に合わせて文字がカットインされる手法が行われ」て「ボーカルのフレーズに合わせた歌詞のカットイン、文字サイズや文字組みの方向のダイナミックな変化などにより技巧的に発展」していったとする。

両記事、そしてリリックビデオを解剖する(前)Text by えむ|佐々木友輔ともに『じん - カゲロウデイズ』(2011年)がリストアップされており、イラストとリリックのレイヤ構造の複雑化、ストーリー化の代表作としている。
The Graphic Design Reviewによると、『じん - アウターサイエンス』(2013年)を始め、うごくメモ帳やAviutlのツールによる「パースを付けたりXYZ軸に回転させたりする方法」が定番化し、これが今日のリリックビデオの様式として受け継がれている。
この付近を総合し、「カゲロウプロジェクト」及びその近辺のボカロ文化圏が現在の1枚絵MVの殆ど最古のものであると言える。

その後2016年ごろから「ナユタン星人」や「ぬゆり」等の2010年以降の投稿者によってボカロの再興が起こる。この世代の特徴としてVOCALOIDキャラクターを利用せず、オリジナルキャラクターを使ったカゲロウプロジェクトの系譜である点が挙げられる。

2020年、tiktokや他SNSのインフラ化により二次創作が大きく流行する。これは「歌ってみた」として呼ばれる文化である。
Kanaria - KING』(2020年)や『ツミキ - フォニイ』(2021年)はキャラクターの一枚絵とリリックモーションを全面的に使ったMVを制作しており、キャラの一枚絵で映像が構成されるボカロ曲(とその歌ってみた) - frog96labにある通り「映像を簡素化することで二次創作(=動画の改変)のカロリーが下がって、結果的にUGCが増えている」といえる。また『DECO*27 - シンデレラ』等AfterEffecrtsプロジェクトファイルや制作素材を配布するようになり、この傾向に作家自らが追従していた。
なおかいりきベアは2015年から『かいりきベア - セイデンキニンゲン』(2015年)、『かいりきベア - ベノム』(2018年)のように同様の様式で制作しており、いくつかのフォロワーを経てKINGがその一般化に大きく寄与したとfrog96labでは推測している。
この頃のリリックデザインはカゲロウデイズから落ち着いたものの構成や動きに片鱗を残す。

同時期、モーショングラフィクスを主軸とした作家への依頼が見られるようになった。
例えば「雄之助」は静止画主体のMVから5th Albumの公開後、映像作家「bondbond」とイラストレーター「そゐち」によるカメラアクションとリリックモーションの要素を持つ『雄之助- PaⅢ.REVOLUTION』(2020年)や、「にへ」による3DCG及びポストエフェクト、グラフィクスデザインの要素を持つ『雄之助 - 花となれ』(2021年)を投稿している。

脇道:黄色の背景と重音テト
KING系統の様式について、『吉田夜世 - オーバーライド』(2023年)の1億再生(2024年)規模のバズと、『柊マグネタイト - テトリス』(2024年)等同様式のバズが重なり、”黄色背景”と"重音テト"の様式に多数のフォロワー者を出した。
これに対して『Yu-ra - 黄色の背景でテト動けばバズる』(2025年)のようなメタ視点での作曲も行われこちらもニコニコ大百科や初音ミク Wikiへ掲載される規模にバズり、一部において「流行りのボカロ曲」の記号として本様式が認識されている。
なおビビッドな黄色背景と静止/アニメーションしたイラストの様式自体は、『Yukopi - 強風オールバック』(2023年)や『かいりきベア - メンタルチェンソー』(2021年)のようにそれ以前から用いられている様式である。[1]
1. 背景が黄色いボカロ曲を集めています - YouTube

VTuberシーン

VTuberシーンは「「風とバーチャル」年表集+用語集」をソース捜索として参照する。
時を前後し、2016年にキズナアイが『【自己紹介】はじめまして!キズナアイですლ(´ڡ`ლ) - YouTube』を投稿し、2017年以降ニコニコ動画を起点として「バーチャルYoutuber」が流行した。
その後2018年頃に『富士葵 - フリージア(カバー)』(2018年)等の歌ってみた動画が投稿された。これらは3Dアバターとカラオケ的な歌詞表示のフォーマットが使われていた。
またLive2DアバターのVTuberは、『羽子田チカ - カガリビト』(2018年)や『森中花咲 - オトナのオトメ』(2019年)のように、CGやポストエフェクトに1枚絵MVの様式を持ちつつ、Live2Dの歌唱した動画を乗せるフォーマットが多かった。

ボカロ楽曲においては『ミライアカリ - ECHO(カバー)』(2018年)や『名取さな - 惑星ループ(カバー)』(2018年)などで「本家再現」としてイラストの制作が見られるものの、依然として3Dアバターを利用した動画(『富士葵 - ロキ(カバー)』(2018年)等)が主流だった。
オリジナル楽曲でも同様で、『ときのそら - 海より深い空の下』(2018年)等3Dアバターの技術的な評価に重きをおいていた。
ただし例外として自作や友人に動画制作技術がある場合に、『星街すいせい - comet』(2018年)のような1枚絵MVのフォーマットが見られる。

歌ってみた以外の、3DアバターやLive2Dモデルを持ちながら2Dイラストを利用したMVは、2019年以降に登場する。
花譜 - そして花になる』(2019年)は神椿のイラストレーター、また花譜本人のキャラクタデザインを担当した「PALOW」によるイラストMVが登場し、リリックもグラフィックデザイン的に組まれアニメーションする。
またホロライブ等の王手でも『宝鐘マリン - Ahoy!! 我ら宝鐘海賊団☆ -』(2020年)や『ChroNoiR - ヘテロスタシス』(2020年)のように、Live2DアバターのVTuberから中心にオリジナル楽曲の1枚絵MVが公開されるようになる。
また、この時期に行われた個人音楽系VTuberのコンピアルバム「#ADVENTUNE」のMV様式の変化を見てみると、

  • #ADVENTUNE 2020年: 1枚絵MV 1/8(12%), 他(静止画 4, CG/イラストアニメ 3)
  • #ADVENTUNE2 2020年: 1枚絵MV 1/9(11%), 他(静止画 4, CG/イラストアニメ 3, 実写 1)
  • #ADVENTUNE3 2021年: 1枚絵MV 4/11(36%), 他(静止画 0, CG/イラストアニメ 6, 実写 1)

と推移しており、静止画の割合の多くが1枚絵MVに推移してきたことがわかる。
ここから3Dアバターやアニメーション技術の有無によって違う様式選択の変遷があったと推測できる。

リリックモーションに関しては2020年以降、『カンザキイオリ - あの夏が飽和する。2020ver.』(2020年)や『ヰ世界情緒 - ハイドレンジア』(2020年)等、「様式に少なかった「文字をエレメントごとに分解/構築して動かす」表現」が見られた。神椿周辺でのVTuberシーンとボカロシーンでの同時多発的な現象で、これは次項の文脈の合流に通じる。

ソーシャルゲーム/アニメ作品、及び各文脈の合流

2020年ごろからソーシャルゲームである「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」は『命に嫌われている。 / 25時、ナイトコードで。 × 初音ミク』(2020年)を始めゲーム上でMVを表示している。
また公式Youtubeでは「2DMV - YouTube」という名称でプレイリストを作成している。
これは本ゲームの背景映像としてキャラクターモーションを使ったもの(3DMV)と区別するために用いられており、様式は1枚絵MVである。
なおこの映像は確認範囲において現在1枚絵MVでよく見られる「座布団(文字の後に四角形を配置する演出)」のおよそ最古の例である
特筆すべき点として、VTuberシーンではボカロ楽曲の歌ってみたの「本家再現」のためにイラストとMVを制作しているのに対し、プロセカ2DMVでは本家のMVをモチーフとしながらカメラモーションやリリックデザインにアレンジを加えている点にある(『フラジール / Vivid BAD SQUAD』(2020年)等)。

2024年に「学園アイドルマスター」がリリースされ、楽曲MVが1枚絵MVの様式で公開されるようになった。
初星学園 - Fighting My Way』(2024年)は「Rei Kurashima」のディレクションのもとグラフィックデザイナー等による合作で高カロリーな作品である。
また二作目の『初星学園 - Luna say maybe』(2024年)は「イクミ」による2Dグラフィクス基調の1枚絵MVを制作した。
イクミによる作品は多くのフォロワーを生んでおり、例えば『Vivid BAD SQUAD × 初音ミク - ULTRA C』(2024年)は『雨良 - アリフレーション』(2025年)のように参照されている。

20年代中期に入ると、このようにMV作家の横断によって、一時ボカロ=ニコ動文化から離れたボカロ、VTuber、及びネット上で活動する音楽家のそれぞれの様式が合流を進めた。

脇道:MV作家のキャラクター化
2024年以降、アニメ作品や映画において、”ネットで活動するMV作家”にフォーカスを当てたキャラクタ・題材のものが制作されている。
例えば『夜のクラゲは泳げない』(2024年)は登場キャラクタの一人である「渡瀬キウイ」が主人公たちにVTuber技術の延長でMVの制作を依頼される場面が有り、実際に制作された映像『JELEE - 最強ガール』(2024年)がエンディング映像として放送され、以降もEDにその回で制作したMVが登場する流れとなった。なお実際の制作者は「DECO*27」や「キノピオピー」などのボカロMVも制作している「サイトウユウマ」による。

同年「ヨルシカ」のいくつかのMVも担当したHurray!による、主人公にMV作家を据えた長編アニメ映画『数分間のエールを』(2024年)が上映され、主人公は劇中で数本の3Dトゥーン調のMVを制作した。
2025年にはプロジェクトセカイの映画映画『劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク』(2025年)が上映され、内「25時、ナイトコードで。」の作品では1枚絵MVの様式で作品が登場し、また劇中ショップ映像で「にへ」による1枚絵MVの『irucaice × 市瀬るぽ - 君恋クエスト』(2025年)が登場している。なお君恋クエストの様式はAnimation memeを含む。

発展と過渡

Giga - プレイ』(2025年)『初星学園 - Kira Kira』(2026年)を筆頭に、20年代中期以降Live2DやAEのモーフィングを使った1枚絵のアニメーション化が行われるようになった。
また同時期、『サツキ - メズマライザー』(2024年)の「channel」を始めとする作家により、1枚絵MVの範疇に必ずしも含まれないAnimation memeの様式を含むMVが広まっており、Live2D系の1枚絵アニメーションと独立に並行して流行している。
同じく同時期にVTuberシーンでも一枚絵のアニメーション化は進んでおり、例えばホロライブ DEV_ISでは『ReGLOSS - 泡沫メイビー』(2024年)のようなパペットピンによる髪揺らしと、それに続き『FLOW GLOW - 24K GOLD』(2025年)のようなポージングの変更の試行が見られる。

一方1枚絵MVのアニメーション化や、MV様式自体にフルアニメーションの選択が取られるようになって以降、特に2DCG方面の1枚絵MVは廉価であるという認識が起こっている。
例として『初星学園 - Choo Choo Choo』(2026年)公開後に同作及び作中キャラの関係するMVに対してSNS上で「省エネ」「コンパクトな作り」と評され[1]、1枚絵MVの初期のみならず、発展系としての2Dグラフィックを利用した高品質な1枚絵MVも作風として古い表現になりつつある。
1. Xユーザーのふぶきさん: 「学マスのMVに“差”を感じるのはなぜか? ゲーム・エンタメ業界経験者たちに聞いてみた」 / X

1枚絵MVのジャンル

以上の変遷からサブの様式でのジャンル分けを考えてみる。
なお制作方法や由来についてはそれぞれの作家のSNSからの推測や聞き込みによる、おおよその傾向である。

中期ボカロ系

時期: 2013年~
『DECO*27 - モザイクロール』『じん - カゲロウデイズ』
一般的に「ボカロMV」と呼ばれる様式。
元うごメモユーザーを多く含む作家によって制作される、3次元回転のアニメーションの特徴とシンプルなオブジェクトの様式。2020年以降うごメモから文字PV作家を経由する場合が増えている。
ポストエフェクトに利用されるものはAviutlによるものが多い。

単色背景系

時期: 2015-2018年~
『かいりきベア - ベノム』『Kanaria - KING』
一般的に「リリックビデオ」「KINGみたいな」と呼ばれる様式。
2次元的な歌詞の表示とカメラ移動の少ない様式。Aftereffectsを主に利用して制作される。背景が単色であり、文字のアニメーションは少ない。
二次創作志向があり、素材共有の文化も有する。

モーショングラフィクス系

時期: 2020年~
『花譜 - そして花になる』『雄之助 - 花となれ』
MG作家、グラフィックデザイナーへの依頼によって制作される、複雑なレイヤ構造とポストエフェクトの様式。Aftereffects及びCinema4D, Blender等の3DCGソフトの併用が見られる。
傘下: 1枚絵アニメーションの系譜
時期: 2025年~
『Giga - プレイ』『FLOW GLOW - 24K GOLD』
Live2Dアニメーターをアサインした場合に当たる。またそれ以降映像作家側でパペットピンを使った制作やLive2Dの導入も行われる。

2DMV系

時期: 2020年~
『Leo/need × 初音ミク - ray』『初星学園 - Luna say maybe』
モーショングラフィクスの系譜の作家によって制作される、Z軸に浅いレイヤー構造と高密度なグラフィクスデザインの様式。Aftereffects及びIllustratorを併用する。